iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で積み立てた掛金を自分で運用し、60歳になったら年金や一時金として受け取れる私的年金です。主に公的年金の受給額が少ない人を中心に利用されており、2020年12月の時点で加入者は176万人を超えています。掛金や運用方法、運用した年金資産の受取方法は制限内で自由に選ぶことができ、掛金は月々1万円程度、運用商品は定期預金、受取方法は一時金として一括で受け取れます。税制優遇措置があるので、所得控除や運用益の非課税など様々なシーンで非課税になります。
iDeCoで定期預金に積み立てた掛金は所得控除の対象で、所得税と住民税が軽減されます。仮に月々の掛金が1万円だとすると年間2万円以上の税金が浮くことになります。ただし所得控除の手続き方法が加入者区分や掛金の払込方法に応じて異なります。またiDeCoでは運用益も非課税になります。通常、定期預金の利息のような運用益は2割近くが源泉分離課税の対象になりますが、iDeCoならば非課税なので利益が目減りするのを防ぐことができます。
iDeCoは60歳になると年金資産を受け取れますが、その際にも控除が適用されます。控除の種類は受取方法によって異なり、年金として分割で受け取る場合は公的年金等控除、一時金として一括で受け取る場合は退職所得控除が適用されます。ただし、公的年金等控除は公的年金なども合算した上で適用されるため、iDeCo以外の各種年金を一緒に受け取っていると非課税限度枠を超えてしまい、税負担が増える可能性があります。退職所得控除も同様で、iDeCoとは別に勤務先から退職金を受け取ると非課税限度枠を超える可能性があります。そのため年金受給額や退職金の有無を確認してからiDeCoの受取方法を決めましょう。
通常の定期預金は中途解約すればそこで取引終了ですが、iDeCoでは運用商品を中途解約できてもiDeCo自体を辞めるのが困難で、複数ある脱退条件を全て満たす必要があります。そのため脱退できない加入者のために、掛金拠出を停止して運用だけを継続する方法が用意されています。万が一運用中に加入者が死亡した場合は、遺族の請求に応じて年金資産が死亡一時金として遺族に支払われます。死亡一時金は相続税の課税対象ですが、死亡から3年以内に請求すれば死亡退職金として一定金額が非課税となります。もちろん生前に脱退した場合も、それまでに形成した年金資産を脱退一時金として受け取ることができます。
iDeCoを利用の際には各種手数料が発生します。たとえば一般的に定期預金で資産運用する際は手数料がかかりませんが、同じ定期預金でもiDeCoで運用すると手数料が発生するのです。手数料の金額は金融機関によって違うため、iDeCoに加入する際はできるだけ手数料の安い金融機関で加入するようにしましょう。iDeCoを利用できる金融機関は1カ所と決められており、加入したら特別な事情がない限り中途解約もできません。
iDeCoに加入すると、様々な機関に手数料を支払う必要があります。たとえばiDeCo加入時には国民年金基金連合会に手数料を支払う必要があり、運用期間中も国民年金基金連合会や信託銀行などに手数料を支払わなくてはいけません。このうちiDeCo加入時に支払う手数料は2,829円ですが、運用期間中の手数料は金融機関によってまちまちで、最低で月に171円、金融機関によっては600円程度かかります。基本的にはインターネット銀行などの手数料が安い傾向にあります。
このように手数料の多いiDeCoですが、運用期間中の手数料は節約することが可能です。それというのも運用期間中の手数料は掛金を拠出する際に発生するため、掛金の拠出回数を減らせば手数料も減らせるからです。以前までのiDeCoは毎月掛金を拠出する必要があったため手数料も毎月発生していましたが、2018年から掛金を年単位で拠出する年払いが可能になり、最低で年1回掛金を拠出すれば良いことになりました。拠出が年1回ならば手数料の支払いも年1回になるため、毎月掛金を拠出する場合に比べて11カ月分も手数料を削減できます。
掛金の年払いはiDeCoの運用商品を定期預金に指定している利用者も活用できます。それというのも値動きのある金融商品は価格変動リスクを防げる月払いが最適ですが、定期預金にはそのようなリスクがないために年払いで手数料を抑えたうえで掛金を拠出できるのです。さらに年1回の拠出日に備えて1年がかりで掛金を用意することもでき、毎月掛金を拠出するのが困難な加入者にも活用できます。
iDeCoは老後資金を自力で運用して調達する私的年金です。加入者は定期的に掛金を拠出して、その元金を定期預金を始めとする金融商品で運用できます。一般的に定期預金を使った資産運用では元金に比例して利息も増えるため、iDeCoでも掛金を多く拠出して元金を増やすのが効果的に思えます。しかし実際は加入者区分によって掛金の拠出限度額が定められています。
iDeCoの拠出限度額は加入している国民年金などの諸条件によって異なりますが、月払いの場合は最低で月々12,000円、最高だと月々68,000円まで拠出することができます。主に会社員や公務員など厚生年金や企業型確定拠出年金に加入している個人は拠出限度額が少なくなり、自営業者や学生は拠出限度額が多くなります。また掛金を年払いする場合は、月々の拠出限度額に12を乗じた金額(12カ月分)が年間の拠出限度額となります。
iDeCoでは拠出限度額以内で掛金の金額を設定できますが、金額には下限など多少の条件があります。たとえば月払いの掛金は月々5,000円以上と決められており、年1回拠出する年払いの場合も年60,000円以上と決められています。積立定期預金や定期積金といった積立式の金融商品に比べると少々下限の金額が多めです。もっとも、下限さえ満たせば掛金は1,000円単位で細かく調節でき、毎年金額を変更できるので、自分の収入や運用計画に合わせて最適な金額を設定できます。
iDeCoで定期預金を運用している場合、掛金を年払いにすると手数料が節約できますが、年払いにするには事前に掛金拠出の年間計画を申告する必要があります。それというのも年払いを希望する際は加入者月別掛金額登録・変更届といった書類を提出する必要があり、そうしないと年払いが適用されないのです。また掛金は口座振替と給与天引きという2種類の方法から拠出方法を選べますが、給与天引きの場合は年払いが対応できない可能性があります。そのため勤務先に年払いの有無を確認しておきたいです。
iDeCoでは元本確保型で確実に資産運用できる定期預金を運用商品に設定する利用者が多いのですが、その際に重要なのが定期預金の店頭表示金利です。それというのもiDeCoの定期預金は商品や金融機関によって店頭表示金利が異なり、低い金利の定期預金と高い金利の定期預金では受け取る利息が異なります。そのため高い金利の定期預金を取り扱っている金融機関でiDeCoを利用するのも一つの考え方です。
iDeCoの定期預金の店頭表示金利は、とくにインターネット銀行などが高い傾向にあります。インターネット銀行は実店舗を置かずにインターネットバンキングで取引を受け付けるため、人件費や実店舗運営費用が少ない分だけ金利や手数料に還元できるからです。iDeCo以外の通常の定期預金の金利も高く、おまけに振込手数料も割安なため、iDeCoだけでなく普段使いのメインバンクとしても取引できます。
iDeCoの定期預金の具体例としては、みずほDC定期預金があります。みずほDC定期預金はみずほ銀行をはじめとした多くの金融機関が提供しているiDeCoの定期預金で、商品内容がシンプルで使いやすいです。預入期間は主に1年と短めですが、自動継続定期預金なので満期日後に口座開設時と同じ条件で預入が再開され、長期的に預け続けることが可能です。またその際には利息が元金に組み込まれた上で預入が再開されるため、実質的に1年複利で運用できます。
iDeCoの定期預金は、運用期間中の手数料や口座管理手数料が高い金融機関だと、手数料が利息を上回って赤字になります。そのため金利の高さだけではなく、各種手数料の安さも確認したいです。
iDeCoの定期預金の口座開設手続きは、通常の口座開設手続きよりも時間がかかります。たとえば昨今はインターネットバンキングやATMで定期預金の口座開設ができますが、iDeCoの定期預金を口座開設する際は、まずiDeCo加入のための申請書類を請求する必要があるのです。申請書類はインターネットやコールセンター、各金融機関の店舗窓口で請求できます。インターネットは時間を問わないのが特徴で、コールセンターや店舗窓口はスタッフに相談しながら請求できるのが特徴です。
申請書類に基礎年金番号などの必要事項を記入したら、iDeCoを取引したい金融機関に返送しましょう。ただし返送してもすぐには加入できず、国民年金基金連合会の審査を受ける必要があります。この審査が非常に長くて最短でも1カ月、長いと2カ月以上も時間がかかります。通常、定期預金のような金融商品を申込むと早ければその日のうちに取引が開始できますが、iDeCoはかなり時間がかかるので余裕を持って申込むようにしましょう。
国民年金基金連合会の審査で承認されるとiDeCo専用口座が開設されてiDeCo加入手続きが完了し、運用商品や掛金の設定、掛金の配分指定といった管理が行えるようになります。掛金の配分指定とは、どの運用商品にどれくらい掛金を拠出するかをパーセンテージで指定することで、たとえば定期預金だけを運用する場合、定期預金の配分割合が100パーセントとなるため掛金全額が定期預金に拠出されます。複数の運用商品を取引する場合は、それぞれに掛金を分割して拠出します。
iDeCoの定期預金は通常の定期預金と同じように中途解約が可能です。中途解約すると中途解約利率という本来よりも低い店頭表示金利が適用されて受け取る利息が減ってしまいますが、新たに配分を指定し直して別の運用商品に拠出することができます。しかし中途解約したまま配分指定しないでいると、それまで積み立てた年金資産が未指図資産(運用しないただの現金資産)になったり、各金融機関が指定した運用商品へ自動的に拠出されてしまいます。そのためiDeCoの定期預金の口座開設や中途解約は計画的に行いましょう。