2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震など、災害大国の日本で今とくに目立っているのが震災です。
規模はちがえど全国各地で震災が起きており、南海トラフ地震のように近い将来の発生が予想されている震災もあります。
そのため飲食物の備蓄や避難場所の確認などを行い、日頃から震災に備える人が増えています。
意外と見落とされがちなのが、預金口座の震災対策です。
震災時には、預金通帳やキャッシュカードの紛失、停電によるATMや決済サービスの機能不全、などのトラブルが起きる可能性があります。
震災の際、被災地の各金融機関では被災者向けの様々な取り組みが行われます。
たとえば、預金の払い戻しです。被災者が生活資金などを確保するのに欠かせないからです。そのため被災地の金融機関の店舗窓口では、積極的に預金の払い戻しを受け付けます。
払い戻せる預金はおもに普通預金ですが、利用中の定期預金を中途解約して払い戻すことも可能です。
定期預金は普通預金に比べてまとまった金額を預けてあることが多いため、より多額の資金が必要な場合は定期預金の解約が効果的です。
また、東日本大震災のような未曽有の大震災では、状況に応じた特別措置が提供されることがあります。
たとえば東日本大震災では、居住地を離れて避難生活を送る被災者が多かったため、普段取引のない金融機関でも預金の払い戻しが行えました。
具体的にいうと、普段A銀行と取引している被災者が、避難場所にあるB銀行の店舗窓口で、A銀行の預金を払い戻せたのです。
この場合は一日に払い戻せる金額に上限があったり、定期預金の解約ができない場合などもありましたが、他の金融機関を通じて取引金融機関と取引ができるので多くの被災者が利用しました。
このように被災地や避難地域の金融機関では、店舗窓口で普通預金の払い戻しや定期預金の解約に応じています。しかし、最寄りの店舗窓口まで行けない被災者も少なくありません。
そこで一部の金融機関は、震災時に移動ATM車を活用しています。移動ATM車とはATMが搭載された専用車両で、ATM取引はもちろん、乗車した行員による預金の払い戻しなども可能です。
移動ATM車は発電機を搭載しているため、停電した被災地でもATM取引ができ、スマートフォンの充電に対応している場合もあります。
被災地の金融機関の店舗窓口では、普通預金の払い戻しや、定期預金の解約が可能です。その際には第三者による不正取引を防ぐために、しっかりとした本人確認を行うことが重要です。
しかし平常時と違って、震災時の本人確認は非常に困難です。なぜなら震災時は自宅が倒壊した被災者や、身一つで急いで避難した被災者が少なくないため、通常の本人確認に必要な預金通帳やキャッシュカード、印鑑などを紛失しているケースが多いからです。
そのため震災時には、預金通帳、キャッシュカード、印鑑がなくても本人確認を行えます。
たとえば震災時の本人確認に有効なのは、運転免許証や健康保険証、パスポートなどの本人確認書類です。
どれか一つでもあれば、預金者本人であることが確認され、普通預金の払い戻しや定期預金の解約ができます。
また万が一、震災でこれらすべてを紛失した場合も、震災時の特例措置として氏名や住所を申告すれば本人確認に代えることができます。
さらに、この住所氏名を申告して本人確認する方法は、震災時に預金口座を開設する際にも有効です。
たとえば東日本大震災や熊本地震では、被災者が金融機関の店舗窓口で住所氏名、生年月日を申告して、預金口座を開設することが可能でした。
被災地の市町村が発行する罹災証明書も、被災者の本人確認書類になります。
罹災証明書は震災を含む様々な災害の被災者に対して発行される証明書で、災害によって被害を受けたことやその程度を証明するものです。
金融機関の店舗窓口で罹災証明書を提示すれば、本人確認が行えます。
また、罹災証明書は被災者支援を受ける際にも必要不可欠です。
たとえば罹災証明書を持っていると、被災者生活再建支援金や義援金を受け取ったり、災害援護資金を借りたり、税金や保険料、公共料金などの減免や猶予を受けられます。
さらに仮設住宅に入居する際にも必要なので、とくに甚大な被害を受けた場合は必ず罹災証明書の交付を受けましょう。
このように震災時には、住所氏名や生年月日で本人確認が成立したり、罹災証明書が新たな本人確認書類となります。
そのため、各種の本人確認書類、キャッシュカード、預金通帳、印鑑などを紛失してもあまり問題はありませんが、後日再発行する手間を考えると紛失しないに越したことはありません。
またデビット機能やクレジット機能付きのキャッシュカードを紛失すると、第三者に不正利用される可能性があります。
そのため避難する際には可能な限り、本人確認書類、キャッシュカード、預金通帳、印鑑などを持参しましょう。
インターネット銀行は、預金の金利や各種手数料が優遇されています。しかし、震災時には独自の注意点があります。たとえば停電に弱い点などです。
インターネット銀行は実店舗を設置せず、おもにインターネットバンキングやATMで取引を受け付けます。しかし震災時には電力設備が被害を受けて停電の起こることがあります。
すると停電中はWi-Fiでインターネットにつないでインターネットバンキングを利用したり、ATMが使えないために、インターネット銀行と取引ができなくなってしまいます。
したがってインターネット銀行の利用者は、震災時にインターネット銀行と取引する手段を用意しておくことが重要です。
そこで活用したいのが、スマートフォンです。
なぜならスマートフォンは急な避難の際でも持ち運びやすく、Wi-FiだけでなくLTEなどの通信規格に対応しているため、停電時や野外などのWi-Fiが利用できない状況でもインターネットにつながりやすいのです。
さらに震災時のインターネット銀行は、おもにインターネットバンキングが使えない被災者を対象とした専用ダイヤルによる相談窓口を設けます。そして普通預金の払い戻し、定期預金の解約などを受け付けています。
そしてスマートフォンの通話機能を利用すれば、そういった相談窓口に電話できます。
ただし震災時、とくに地震発生直後は回線が混雑してインターネットや電話がつながりにくくなる点には注意しましょう。
また停電被害がなくても、震災時には実店舗を持たないインターネット銀行の特徴が逆に不利になります。
それは、実店舗を持たないインターネット銀行はATMで預金の払い戻しを行いますが、その際は必ずキャッシュカードが必要です。
しかし、震災時はキャッシュカードを紛失する被災者が多く、ATMを利用できない(インターネット銀行の預金を払い戻せない)ケースが多いのです。
このような事態を防ぐには、インターネット銀行以外の他の金融機関にも預金口座を開設しておきます。
なぜなら実店舗を設置する一般的な金融機関は、キャッシュカードがなくても店舗窓口で預金を払い戻せるからです。
そのため、都市銀行、地方銀行、ゆうちょ銀行などの実店舗型の金融機関に預金口座を開設しておきたいです。
また、インターネット銀行から他の金融機関の自分名義の預金口座に資金を振り込んで、店舗窓口で払い戻すという手順を踏むこともできます。
そうすることで、ATMを使わずに他の金融機関を経由して、インターネット銀行の預金を払い戻せます。
震災時は預金者本人ではなく、その親族が普通預金の払い出しや定期預金の解約を行えます。
通常は預金者本人しか預金口座を取引できませんが、震災時は特別措置として各金融機関が柔軟に親族からの取引に対応しています。
たとえば、震災によって預金者本人が行方不明の場合や、怪我などで動けなくなった場合です。この場合の親族とは、おもに預金者本人の配偶者、子ども、親などです。
具体的な事例としては、預金者本人や親族の生活資金を調達するために、普通預金の払い出しや定期預金の解約を行うことが多いです。
このように震災時は預金者本人でなくても、その親族が普通預金の払い出しや定期預金の解約を行えますが、払出金額は払い出しの目的や被災者の状況に応じて異なります。
たとえば当座の生活資金を払い出す場合は、10万円程度を上限とする金融機関が多く、あまり多額の金額は払い出せません。
一方で医療費や葬儀費用などに利用する目的で払い出しを行う場合は、必要金額が多いことから、まとまった金額を払い出せます。
とくに医療機関や葬儀会社の請求書や領収書などを店舗窓口で提示すると、確実に必要金額分を払い出せます。
震災時は本人確認のための預金通帳、キャッシュカード、印鑑、各種本人確認書類を紛失する被災者が多いので、住所氏名で本人確認に代えられます。
しかし、預金者本人の親族が金融機関と取引する際は、成りすましや預金の不正利用を防ぐために、より慎重な本人確認が求められます。
たとえば親族が取引する際は、最低でも預金者本人の住所氏名や生年月日、預金者本人との続柄を伝えて、本物の親族であることを証明する必要があります。
さらに必要に応じて、預金者本人との同居の有無や、預金者本人が来店できない理由、預金者本人や親族の避難先を伝えたり、金融機関が預金者本人に電話で事実確認を行うこともあります。
このように震災時は預金者本人の親族が金融機関と取引する事態が起こり得るため、事前に親族同士で取引金融機関や、払い出しが可能な預金口座などを確認(情報共有)しておきたいです。
そうしないまま親族の一人が行方不明または死亡すると、他の親族はその人の取引金融機関を調査するところから始めなければいけません。
なお「払い出し」は「払い戻し」と同じく、出金を意味する言葉です。
預金者本人に払い渡すという意味合いが強い「払い戻し」に比べて、「払い出し」は単なる支出の意味合いが強いです。
そのため、ここでは預金者本人による出金を「払い戻し」、預金者本人以外による出金を「払い出し」と表現しています。
震災時は、生活資金、治療費、葬儀費用などで何かと現金が必要です。
そのため預金者本人ではなくて、その親族が金融機関と取引をして、普通預金の払い出しや定期預金の解約をして資金を調達できます。
しかし預金者本人が震災で亡くなると、普通預金や定期預金に預けた金銭は相続財産となり、親族であっても取引ができません。残された親族(震災遺族)で所定の相続手続きを行います。
ただし、一部の金融機関では預金者本人の死亡を確認できる書類(死亡診断書や火葬許可証など)や、払い出しをする親族が法定相続人であると確認できる書類があれば、相続手続き前でも一定の払い出しに応じています。
震災遺族が相続手続きを行う際によくあるのが、相続財産の調査に関するトラブルです。
たとえば、故人の預金通帳やキャッシュカードを紛失して、取引金融機関や口座番号の分からないケースがあるのです。
万が一、取引金融機関や口座番号が分からない場合は、まず心当たりのある金融機関に連絡して、故人の預金口座(普通預金や定期預金など)の所在を確認しましょう。
なお、東日本大震災では、故人の預金口座を調査するための「被災者預金口座照会センター」が一時的に設置されました。
そして、故人の取引金融機関、取引支店、預金残高などを電話窓口で問い合わせできました。
相続財産の調査には、このようなサービスを活用できます。
震災時は遺言書の紛失、相続財産の損害、相続人の音信不通などのトラブルが起こります。その際に心強いのが、相続手続きの期限延長措置や災害減免措置です。
期限延長措置とは、相続手続きの期限が延長される措置です。通常は相続手続きに期限が設けられており、たとえば相続税の申告や納付手続きは被相続人の死亡から10ヶ月以内に行う必要があります。
しかし、所定の被災地域の震災遺族は期限延長措置が適用されて、トラブルを処理しながらゆっくりと手続きを進められます。
もう一方の災害減免措置は、相続財産が被災によって損害を受けた際に、相続税や贈与税が減免される措置です。
相続手続きの際には、必ずこれらの期限延長措置や災害減免措置の有無を確認しましょう。
さらに相続人に未成年が含まれている場合は、所定の対応が必要です。
たとえば当該未成年者の代わりに遺産分割協議や各種契約手続きに参加する特別代理人を立てたり、当該未成年者が相続した財産を代理で管理する未成年後見人を立てる必要があります。
ただし親権者の有無などによって必要な対応が異なるため、専門家に相談しながら手続きを進めましょう。
また未成年の相続人は「相続税の未成年者控除」の対象となるので、控除を受ける手続きも必要です。
また、日頃から震災対策向けの定期預金を利用すると、震災時の資金調達や定期預金の処理が速やかになります。
震災対策向けの定期預金とは、たとえば大垣共立銀行の「震災対策定期預金(手のひら定期)」です。手のひら定期は震災が起きると自動的に解約されて、元金と利息が震災時入金指定口座(普通預金)へ入金されます。
自動解約されて震災時入金指定口座(普通預金)に入金されるのは、震災時には普通預金から生活資金を払い戻す被災者が続出するためです。
加えて、手のひら定期の震災時入金指定口座(普通預金)は、手のひら認証ATMで入出金取引ができます。
手のひら認証ATMは生体認証に対応したATMで、静脈情報で本人確認をして入出金取引ができるので、震災で預金通帳やキャッシュカードを紛失しても問題がありません。
被災地以外の金融機関では、被災地の復興を支援するための定期預金が積極的に提供されています。
たとえば東日本大震災後は、利用者から集めた預入総額の一部を義援金として寄付する定期預金が様々な金融機関で提供されました。
これらの定期預金は適用金利が優遇されることが多く、寄付する義援金は金融機関の収益から拠出されており、利用者の預入金額や利息は減らない特徴があります。