金融機関の職員が、顧客から預かった資金や定期預金の解約金などを不正に自分のものにする事件は、現在でも起こり得ます。
ただし「着服」という言葉は一般的な表現で、実際に成立する犯罪は、業務上横領、詐欺、窃盗、文書偽造など、具体的な行為によって異なります。
預金者側で最も重要なのは、金融機関の職員を必要以上に疑うことではなく、必ず銀行の正式な手続きで取引し、自分自身でも残高・定期預金明細を確認できる状態にしておくことです。
代表的なケースとしては、次のようなものがあります。
| ケース | 概要 |
|---|---|
| 預入資金の使い込み | 定期預金を作るために預かった資金を、実際には預け入れず私的に使う |
| 無断解約 | 顧客の定期預金を無断で解約し、解約金を取得する |
| 架空・虚偽の書類 | 定期預金が存在するように見せるため、不正な証書・明細等を示す |
| 私人口座への送金 | 金融商品への預入などと説明して、職員個人名義の口座へ振り込ませる |
| 顧客名義取引の悪用 | 顧客から取得した書類・情報を使い、本人の承諾を超える取引を行う |
金融機関職員による着服事件から読み取れる重要な点は、事件名や被害額そのものだけではありません。
長期間同じ担当者に取引を任せきりにし、顧客自身が銀行の正式な残高や取引明細を確認していないと、不正の発見が遅れることがあるという点です。
金融機関には内部管理・監査・職務分掌などの不正防止策があります。
それでも、すべての不正を事前に完全に防げるとは限りません。
特に、長年付き合いのある担当者から「私に任せてください」と言われると、書類や通帳を預けたままにしてしまうことがあります。
担当者との信頼関係と、正式な金融手続きを省略することは別問題です。
手続き上、金融機関の職員へ通帳や証書を一時的に預けることはあります。
その場合は、金融機関所定の預り証などを受け取り、いつ返却されるのかを確認してください。
担当者個人へ通帳・証書・印鑑などを長期間預けたままにすることは避けましょう。
金融機関の商品へ預け入れる資金なのに、担当者個人名義の口座への振込を求められた場合は、取引を止めて金融機関の公式窓口へ確認してください。
通常、金融商品の代金・預入金を担当者個人の私的口座へ送金する合理的な理由はありません。
「特別な商品だから」「自分が代わりに手続きするから」と説明されても、金融機関本体の正式な入金先かを必ず確認してください。
金融機関職員から提示された書類でも、空欄のまま署名・押印したり、内容を理解しないまま提出したりするのは避けてください。
商品名、金額、預入期間、解約条件、振込先などを確認し、控えを受け取ります。
定期預金を作成したら、職員から渡された紙だけを見て安心せず、可能であれば次の方法で確認してください。
・通帳記帳
・銀行公式アプリ
・インターネットバンキング
・取引明細
・銀行の公式窓口への照会
銀行の基幹システム上に、その定期預金が実際に登録されていることを確認するのが最も重要です。
紙の証書があっても、それだけで定期預金が金融機関の正式な預金として存在しているとは確認できない場合があります。
紙の証書を受け取った場合でも、疑問があれば金融機関の代表電話・店舗窓口へ直接照会し、預金の存在を確認してください。
担当者個人の携帯電話だけを連絡手段にしないことも重要です。
通帳式定期預金には、通帳記帳によって異変を発見しやすいというメリットがあります。
しかし、現在は通帳レス口座も一般的であり、紙媒体の形式だけで安全性は決まりません。
重要なのは、銀行が管理する正式な残高・取引履歴を、自分自身で定期的に確認できることです。
公式アプリやインターネットバンキングを利用すると、定期預金残高・満期日・入出金履歴などを自分で確認できます。
紙通帳のように店舗へ行って記帳しなくても確認できるため、異変の早期発見に役立ちます。
ただし、インターネットバンキングにはフィッシング・不正送金という別のリスクがあります。
パスワードの使い回しを避け、多要素認証・生体認証などを利用してください。
店舗型かネット銀行かだけで、職員不正の発生可能性を比較することはできません。
ネット銀行では対面で職員へ現金・通帳を預ける場面が少ない一方、システム権限の悪用やサイバー犯罪など別のリスクがあります。
銀行の形態だけで「着服されにくい」と断定するのではなく、取引確認と認証管理の両方が必要です。
金融機関職員自身が顧客資金を不正に取得するケースと、犯罪者がフィッシングなどで顧客の認証情報を盗んで不正送金するケースは、別の問題です。
責任関係や補償制度も異なります。
第三者による不正送金については定期預金の不正引き出しもご覧ください。
金融機関職員が業務上預かっている他人の財産を不正に自分のものにした場合、事実関係によっては業務上横領罪が成立します。
2026年現在、刑法253条の業務上横領罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑です。
なお、具体的な行為によっては詐欺罪、窃盗罪、文書偽造等の別の犯罪が問題になることもあります。
業務上横領罪は法定刑の上限が10年であるため、公訴時効は原則7年です。
ただし、複数回にわたって別々の着服行為が行われている場合は、それぞれの行為について時効を検討することになります。
また、公訴時効は刑事責任についての期限であり、被害金の返還・損害賠償を求める民事上の期限とは別です。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、原則として、
・被害者が損害と加害者を知った時から3年間
・不法行為の時から20年間
のいずれかの期間が経過すると時効によって消滅します。
ただし、銀行に対する請求が不法行為なのか契約上の預金払戻請求なのかなど、法律構成によって扱いが変わる可能性があります。
高額被害や古い事件では、自分だけで時効を判断せず弁護士等へ相談してください。
実際の事件では、金融機関が顧客へ弁済する例があります。
しかし、
・職員の行為が金融機関の業務として行われたのか
・銀行の正式な取引として資金が受け入れられたのか
・顧客が職員個人と私的に取引したのか
・被害額・利息・付随損害をどこまで認めるか
などによって法律関係は異なります。
「行員が関わった事件なら銀行が必ず全額補償する」と一律には言えません。
職員が何らかの不正を行っていても、定期預金が銀行の正式な預金として帳簿・システム上に存在している場合は、預金者は原則として金融機関に対する預金払戻請求権を持っています。
一方、「定期預金を作る」と言われて職員個人へ資金を渡したものの、銀行の正式な預金として受け入れられていなかった場合は、事実関係の確認がより重要になります。
被害弁済では、元金だけでなく、本来受け取れたはずの利息相当額が争点になる場合があります。
元金や利息相当額がどこまで弁済されるかは、個別事件の合意・判決・金融機関の対応によって異なります。
弁済案を提示された場合は、「元金」「利息」「その他損害」がどのように計算されているかを確認してください。
一般に、財産的損害が回復されれば精神的損害まで当然に賠償されるとは限りません。
しかし、個別事情によって法的評価は変わります。
慰謝料請求の可否・金額を一律に決めることはできないため、重大な被害では弁護士へ相談するのが適切です。
定期預金残高が消えている、説明された預金が公式アプリに表示されない、預けた資金の行方が分からないなどの異変を感じたら、まず担当者本人だけに確認して終わらせないようにしてください。
銀行の代表電話、お客さま相談窓口、コンプライアンス窓口など、担当者とは別の正式な窓口へ直接連絡します。
次の資料は捨てずに保存してください。
・通帳・証書
・預り証
・契約書・申込書の控え
・振込明細
・メール・SMS
・担当者とのメッセージ
・銀行アプリ・取引履歴の画面
・面談日時や説明内容のメモ
後の銀行調査・警察捜査・損害賠償請求で重要な資料になる可能性があります。
職員による着服・横領・詐欺などの犯罪が疑われる場合は、金融機関への連絡とあわせて警察へ相談します。
金融機関自身が不祥事件として当局へ届け出たり、刑事告訴したりする場合もあります。
金融機関との間で被害額や弁済内容について解決できない場合は、全国銀行協会相談室などの金融ADR、弁護士への相談を検討します。
信用金庫・信用組合・JAなどは、それぞれ対応する相談・ADR窓口が異なるため、利用している金融機関の業態を確認してください。
1. 定期預金作成後、公式アプリ・通帳等で残高を確認する
2. 通帳・証書を担当者へ長期間預けない
3. 預けた場合は金融機関所定の預り証を受け取る
4. 職員個人名義の口座へ資金を振り込まない
5. 空欄の申込書・契約書へ署名しない
6. 定期預金の満期日・残高を定期的に確認する
7. 不審点は担当者以外の銀行公式窓口にも確認する
金融機関との長い付き合いがあっても、預金残高や契約内容の確認は預金者自身が行うことが大切です。
担当者を疑うためではなく、担当者の誤り・事務ミス・不正のすべてを早く発見できるからです。
「信頼すること」と「確認しないこと」は同じではありません。
事実関係によります。業務上預かっている他人の財産を横領した場合は業務上横領罪が問題になりますが、行為によっては詐欺・窃盗・文書偽造など別の犯罪が成立することもあります。
金融機関が被害を弁済する例はありますが、職員の行為が金融機関の正式な業務だったか、職員個人との私的取引だったかなどで法律関係が異なります。必ず全額弁済されるとは一律に言えません。
2026年現在、業務上横領罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、公訴時効は原則7年です。複数回の着服では各行為ごとに検討が必要です。
定期預金を作成したら、銀行公式アプリ、通帳、取引明細などで、銀行の正式なシステム上に預金が存在することを自分で確認することです。
正式な手続きで一時的に預ける場合は、金融機関所定の預り証を受け取り、返却時期を確認してください。担当者個人へ長期間預けたままにするのは避けるのが安全です。
※本ページは2026年8月時点の法制度・一般的な金融実務をもとに解説しています。着服事件で成立する犯罪、金融機関の責任、弁済範囲、利息・慰謝料、民事上の時効などは具体的な事実関係によって異なります。実際に被害が疑われる場合は、金融機関の公式相談窓口・警察・弁護士等へ速やかにご相談ください。
