金融機関の職員による定期預金の着服事件がしばしば起こっています。
金融機関の職員による着服事件とは、顧客が定期預金に預けた資金を当該金融機関の職員が不正に使い込むことで、業務上横領罪に該当します。
この手の事件では、金融機関の職員が数カ月から数年にわたって複数の顧客から着服をくり返すケースが多く、多額の被害額が発生する場合が多いです。
金融機関の職員による定期預金の着服事件は、全国で起こっています。
たとえば2020年1月には、宮崎銀行の行員2人による顧客の定期預金などの着服事件が報道されています。
行員2人はそれぞれ複数の顧客から着服をして、定期預金証書の改ざんや偽造などの手段で着服をしています。被害額は総額で1億2千万円以上にもなります。
同じく2020年1月には、福島県商工信用組合の支店長代理による着服事件も報道されています。
この事件では、支店長代理は18年間に渡って57人の顧客から合計1億円以上を着服しています。着服の手口はおもに顧客の預金口座の無断解約や不正引き出しで、単純に着服した金額だけなら1億円以上です。
しかし発覚することを恐れてか、支店長代理は着服した分の穴埋めも行っており、そのため発覚時の被害額は4,500万円程度まで減っていました。
鹿児島県相互信用金庫でも、2019年12月に職員の着服事件が報道されています。
同職員は、定期預金の作成のために顧客から預かっていた資金や定期預金の解約金などを着服していました。
そして被害を受けた顧客は15人で、被害額は合計1億円近くにも上ります。
また、この職員は着服した資金を使った浮き貸し(金融機関の職員が正式な手続きを踏まずに金銭を貸し付けること)もしています。
このように金融機関の職員による着服事件は被害額がかなりの金額になりますが、その弁済は当該金融機関または着服した職員が行います。
さらに被害を受けた顧客への説明や謝罪を当該金融機関が行い、着服した職員は基本的に懲戒解雇処分された上で当該金融機関から刑事告訴されるというケースが多いです。
もちろん当該金融機関は内部監査機能の見直しなども行い、再発防止に努めています。
金融機関の職員による定期預金着服とは、金融機関の職員が顧客の定期預金を無断で解約して解約金を着服したり、定期預金作成のために顧客から預かった資金を着服することです。
金融機関側の検査や内部告発、顧客からの通報によって発覚することが多く、着服の事実が確認された場合には、着服した職員の懲戒解雇や刑事告訴はもちろんのこと、被害を受けた顧客への被害額の弁済が発生します。
被害額の弁済は基本的に金融機関がしますが、金額が少ない場合は着服した職員や保証人(職員の親族など)が弁済することもあります。また一旦金融機関が弁済を行った後で、金融機関から職員に対して弁済分の金額を請求するケースもあります。
基本的に金融機関の職員が顧客の定期預金を着服した場合は、定期預金の元金だけでなく利息相当額も弁済されます。
たとえば金融機関の職員が顧客の定期預金の解約金を着服した場合は、解約金の全額が弁済されますが、その解約金には元金だけでなく利息も含まれています。
同様に金融機関の職員が定期預金の作成のために顧客から預かった資金を着服した場合は、預かった資金に加えて、定期預金が作成された場合に顧客が受け取るはずだった利息相当額が弁済されます。
実際、金融機関の職員による定期預金の着服事件では、「被害額は弁済された」としか発表されないことがほとんどです。
しかし2017年2月の大分銀行の着服事件や、2008年4月の伊達信用金庫の着服事件では、着服された定期預金の元金に加えて利息相当額も弁済されたことが明らかになっています。
一般的に金融機関で第三者による預金の不正送金や不正引き出しといった被害に遭った場合は、被害を受けた顧客に過失があると補償の対象にならないことがあります。
しかし、金融機関の職員による定期預金着服事件の場合は、基本的に被害額全額が弁済されます。
たとえば、金融機関の職員が顧客の定期預金を着服する際は、架空の定期預金証書を作成して顧客に渡したり、虚偽の説明で顧客に定期預金を解約させたりします。しかしそれで顧客が責められることはなく、金融機関および着服を行った職員に全面的な非があるということで、顧客は被害額をすべて取り戻せます。
しかし、金融機関の職員による定期預金の着服被害に遭った場合は、被害額の弁済はされても慰謝料の請求はできないことがほとんどです。
なぜなら、基本的に慰謝料は精神的な被害に対する損害賠償という位置づけなので、定期預金の着服という金銭的な被害では慰謝料請求はできないのです。
そのため、定期預金を着服されたという理由で弁護士に慰謝料請求の相談を行っても、金融機関や着服した職員から慰謝料は取れません。万が一慰謝料の請求に成功しても、わずかな金額しか受け取れません。
定期預金の着服が発覚した際には、迅速に被害を受けた顧客への謝罪や弁済措置、再発防止の取り組みなどが行われます。
しかし、着服から一定期間が過ぎている場合は、時効が成立することがあります。
たとえば着服した金融機関の職員は、おもに業務上横領罪に問われますが、法律で業務上横領罪の時効は7年なので、着服から7年以上経過すると金融機関の職員の処罰を求められません。
また、着服された被害額の返済請求(不法行為による損害賠償請求)の時効は別に定められています。
具体的には、「被害者(着服された顧客)が着服の事実と犯人(金融機関の職員)を確認してから3年間」、あるいは「着服されてから20年間」のどちらか早いほうが時効として適用されます。
着服事件の際の金融機関の対応が不十分だと顧客からの苦情や信頼関係の崩壊を招くため、実際のところは時効を過ぎた着服に対しても金融機関は真摯に対応しています。
たとえば2018年2月に発覚した豊和銀行の行員による着服事件では、実際の着服が起きたのが2003年から2008年の間だったため、発覚時点ですでに業務上横領罪の時効が成立していました。
しかし豊和銀行は監督官庁に届け出を行い、警察署への通報も行っています。一方で被害額の返済請求の時効はまだ迎えていなかったこともあって、着服の被害を受けた顧客への弁済は滞りなく実行されています。
また、金融機関の職員による着服は、長期間に渡ってくり返し行われることが多いため、発覚時に初期の一部の着服に時効が成立している場合もあります。
この場合は、時効が成立していない分の着服で業務上横領罪に問われます。
たとえば2019年12月に明らかになった、都留信用組合の支店長による定期預金の着服事件がこのケースに該当します。
都留信用組合の支店長の事件では、2018年から2019年の間に約2,000万円が着服されており、さらに都留信用組合の調査によって過去15年間で2億円以上の着服が発覚しています。
過去15年間の着服のうち一部はすでに業務上横領罪の時効が成立していたので、検察は時効を迎えていない分の追起訴を行う方針を明らかにしています。
また、この事件でも被害額の返済請求の時効はまだ迎えていないため、被害を受けた顧客に対して弁済が行われています。
前述の、着服された被害額の返済請求(不法行為による損害賠償請求)の時効は、金融機関の職員以外の人間が着服した場合でも適用されます。たとえば代表的なのは、親族による相続財産の使い込みです。
相続財産とは、相続によって相続人に引き継がれる被相続人の財産のことで、通常は正式な相続手続きを踏んでから相続人の物となります。しかし正式な相続手続きを行う前に、親族が無断で相続財産(おもに預金商品)を使い込むケースが非常に多いのです。
そのような場合は「相続人が使い込みの事実と犯人を確認してから3年間」あるいは「使い込みが行われてから20年間」のどちらか早いほうが時効となります。
金融機関の職員による定期預金の着服事件は、業務上横領罪に該当する立派な犯罪です。しかし、毎年全国各地の銀行などで起こっています。
着服が起きた金融機関では、当該職員の懲戒解雇や被害額の弁済といった対応はもちろん、再発防止のために内部監査強化などの取り組みも行なわれます。
しかし、着服は顧客からの通報で発覚することが多いので、早期発見には顧客本人の対策が重要です。
定期預金着服の手口としてよく利用されるのが、証書の偽造です。
証書とは証書式定期預金を口座開設する際に発行される証明書のことで、定期預金の預入日や預入金額、預入期間、金利などが記載されています。
定期預金の着服事件では、金融機関の職員がこの証書を偽造して定期預金が口座開設されたように見せかけ、実際は口座開設せずに、定期預金作成のために顧客から預かった預入資金を着服する手口が非常に多いです。
証書の偽造による着服対策としては、証書式定期預金よりも通帳式定期預金を選ぶことです。
通帳式定期預金とは、証書を発行せずに、預金通帳に定期預金の明細が記載される定期預金のことです。通帳記帳することで定期預金の現状を把握できる特徴があります。
通帳記帳すれば自動継続の有無や、その際に支払われた利息を確認できるので、証書式定期預金に比べて着服に気づきやすいです。
通帳式定期預金は、解約金の着服にも有効です。解約金とは定期預金を中途解約または満期解約した際に払い戻される元金と利息のことです。
着服事件の中には、金融機関の職員が顧客の定期預金を無断で中途解約し、解約金を着服するケースも少なくありません。しかし通帳式定期預金ならば、中途解約や満期解約されると預金通帳にその旨が記載されます。
そのため万が一、金融機関の職員によって解約金が着服されても、通帳式定期預金ならば通帳記帳することで早期発見が可能です。
通帳式定期預金で着服を早期発見できますが、昨今は預金通帳を発行しないペーパーレス口座も増えています。
ペーパーレス口座とはインターネットバンキング(パソコンやスマートフォンから金融機関と取引するサービス)で取引できる預金口座で、いつでも残高照会や入出金明細照会などができます。
インターネットバンキングの取引内容は証書などと違って簡単に改ざんができないために着服されにくく、万が一着服されても残高照会や入出金明細照会をすれば早期発見ができます。
そのため定期預金の着服対策の一環として、ペーパーレス口座も活用できます。
定期預金の着服のような企業内の不祥事は、「動機」「機会」「正当化」の3つが揃うと発生するといわれます。
「動機」は不正に走る個人的な理由、「機会」は不正を行いやすい環境、「正当化」は不正行為を開き直る心理のことです。
金融機関の職員による定期預金の着服は、遊興費や生活資金、返済のためといった個人的な理由で行われることが多いため、そうした「動機」や「正当化」を防止するのは困難です。
しかし「機会」すなわち着服しやすい環境に関しては、金融機関の未然防止対策や再発防止対策でなくせます。
ただし過去の着服事件の中には、顧客自身が不用意な行動で着服しやすい環境を作った事例もあるため、顧客自身も着服の原因を作らない充分な注意が必要です。
たとえば、2018年2月に発覚した豊和銀行の着服事件では、行員が顧客の定期預金から無断引き出しを行う手口で着服が行われていました。
この事件では被害を受けた顧客が、総合口座通帳と定期預金通帳を着服した行員に預けていたのが、着服の発端です。
金融機関では金融商品やサービスの手続きのために、金融機関の職員に預金通帳や証書を預けることがありますが、通常は必ず「預り証」が発行され、預金通帳や証書も数日で返却されます。
しかし、この事件ではそうした正式な手順を踏まずに、顧客が長期に渡って個人的に預金通帳を行員に預けており、顧客自らが着服しやすい環境を作っていました。
預金通帳や証書を金融機関の職員に預ける場合は、必ず正式な手順を踏み、用が済み次第すみやかに返却されるようにしましょう。
定期預金の着服とは少し違いますが、2017年11月に起きた中国銀行の着服事件では、顧客が行員名義の預金口座に振込をして着服の被害に遭っています。
具体的には、当該行員が中国銀行以外で提供されている運用商品での資産運用を顧客に持ちかけ、それを受けた顧客が行員名義の預金口座に運用資金を振り込み、そのまま着服されています。
この場合は、顧客が行員の個人的な預金口座に振込をしたことが、着服しやすい環境を作る決定打です。そもそも他人の預金口座へ安易に振込をするのは危険な行為なので極力避けたいです。
さらに2014年6月に発覚した筑邦銀行の着服事件では、行員が顧客名義の商品を不正に取引する手口で着服がされています。
この事件では行員が顧客を誘導して、商品の契約書に記入させ、勝手に取引をしていました。最終的には身に覚えのない返済の督促状が届いたことを不審に思った顧客が、筑邦銀行に問い合わせたことで着服が発覚しています。
契約書に安易に署名したことが着服しやすい環境へとつながっているので、契約書など書類の類に署名する際は慎重に中身を確認しましょう。
金融機関の職員による定期預金の着服事件は毎年のように起こっています。そのほとんどが地方銀行などの一般的な金融機関で起こっており、インターネット銀行では滅多にありません。
なぜなら、インターネット銀行は実店舗を持たずにインターネットバンキングやATMなどで取引をし、預金口座の内容を顧客自身がいつでも確認ができ、取引に必要なパスワードも暗号化されているからです。そのため金融機関の職員であっても、第三者が簡単に着服できないのです。
同様に、一般的な金融機関が提供しているペーパーレス口座(預金通帳を発行しない口座)もインターネットバンキングで取引する性質上、着服されにくい傾向にあります。
しかし、2010年2月にはインターネット銀行であるソニー銀行の着服事件が報道されています。
着服した行員は、顧客がパスワードを忘れた際の手続き上の欠陥を突くことで、5人の顧客の預金口座から約3,700万円を着服しています。もちろん行員は懲戒解雇され、手続き上の欠陥も事件後に迅速に改善されています。
しかし、このソニー銀行の着服事件はシステム上の欠陥が着服につながるインターネット銀行のリスクを端的に表しています。
システム上の欠陥は顧客には分からず対応もできないため、インターネット銀行と取引する際はそのようなリスクも念頭において置きたいです。
インターネット銀行では行員による着服事件よりも、第三者による不正送金のリスクのほうが高いのが現状です。
不正送金とは、第三者がインターネット銀行との取引に必要な個人情報(パスワードなど)を盗み、顧客の預金口座から他の金融機関の預金口座に無断でお金を振り込んで盗むことです。
不正送金はインターネット銀行における代表的な犯罪で、インターネットウィルスによって個人情報を盗まれることが発端です。
ただし、システム上の欠陥ではないので、パソコンやスマートフォンにセキュリティ対策ソフトを導入したり、パスワードを定期的に変更したりする方法で、顧客が不正送金対策を行えます。
インターネット銀行や一般的な金融機関のインターネットバンキングは、他企業の着服事件で悪用されることがあります。具体的には、従業員が勤務先の会社のお金をインターネットバンキングで自分の預金口座に振り込んで着服するなどです。
インターネットバンキングはIDやパスワードなどの必要情報を入力すれば、誰でも取引ができます。よってパスワードなどを知っている従業員がその気になれば会社のお金を着服できます。
そのためインターネットバンキングを利用する際は、金融機関の職員に加えて身近な人間(従業員など)の着服にも注意する必要があります。