定期預金の不正引き出しを銀行窓口でするには、本人確認のために身分証明書の提示が必要です。
その際に悪用されがちなのが、顔写真が付いていない健康保険証です。また、近年はインターネットバンキングにおける定期預金の不正引き出しも増えており、セキュリティに関する防犯の意識を高める必要があります。
定期預金の不正引き出しによる被害が発生しています。
自分が知らないうちにいつの間にか定期預金が勝手に解約されているのです。
定期預金の場合はその預金の性質上、預け入れている期間は残高確認をあまりしないため、不正に引き出しされていても気がつきにくいです。
預金の不正引き出しといえば、通常はキャッシュカードを誤って紛失したり、通帳や印鑑が盗難の被害に遭って不正に使用されて起こります。
定期預金の場合は、不法に入手した預金通帳もしくは定期預金証書と印鑑を本人になりすまして使用して、解約手続きが取られます。
定期預金が普通預金に比べて特殊なのは引き出し方法です。
普通預金の場合は盗難キャッシュカードによるATMからの不正引き出しが可能です。それに対して、通常の定期預金は窓口に行かないと引き出しができません。
さらに窓口での預金の引き出しも、普通預金であれば通帳と印鑑があれば引き出し可能です。しかし、定期預金では口座名義人による引き出しかどうかの本人確認が銀行窓口で必ず行われます。
過誤払い防止のために、定期預金の解約や引き出しは普通預金に比べてとても厳重です。そのため、窓口に現れた依頼者が真実の預金者かどうかの確認が銀行員によって行われます。
もちろん犯人は犯行が露見することを恐れるので、自分の顔を見られることを非常に嫌がります。ですから、顔がばれてしまう窓口での手続きが必要な定期預金の解約を通常は避けます。
このようなことを考慮すると、防犯の観点からは普通預金よりも定期預金にお金を預け入れておく方が安全です。
しかし、通帳や印鑑やキャッシュカードと一緒に、生年月日や住所や電話番号などの個人情報や健康保険証などの身分証明書も一緒に盗まれた場合は安心ができません。
銀行員が窓口に定期預金の解約に来た人物を、本人だと誤認する可能性があるからです。
通常は本人確認の際には、運転免許証、パスポート、住民基本台帳カードなどの公的機関が発行した顔写真付きの身分証明書の提示を求められます。
しかし年配者の中には、このような顔写真付きの身分証明書を持っていない場合があります。
そうした人たちが身分証明書の提示を求められた際に出すのが、たいていは健康保険証です。
「国民皆保険」と言われていたように、日本国民であれば健康保険証はほとんどの人が持っています。
身分証明書として健康保険証を提示された場合には、銀行側としてはプラスαの物を求めざるを得ません。
顔写真付きの身分証明書でなければ、本人かどうかの確認が取れないからです。その際には、その他に身分を証明できるものがないかを尋ねられます。
もし他に何もなかった場合には、本人に個人情報をお聞きして銀行に届けられている情報と合致していれば、本人確認が取れたことにすることが現場では行われています。
このような本人確認の盲点を犯罪者が狙ってくる場合があります。
顔写真が付いていない健康保険証で本人確認がされれば、本人になりすませるからです。
そのため、印鑑や定期預金証書を個人情報や健康保険証と一緒に保管しないことが大切です。
最近、銀行の中でもインターネット銀行と呼ばれる、主にインターネット上で取引するタイプの銀行の利用者が増えています。
これはインターネットバンキングと呼ばれていて、インターネット上で口座開設から通常取引までをすべて行えます。定期預金の解約さえもインターネット上で可能です。
インターネット銀行の顧客であれば、通常の銀行とは異なった防犯対策が必要です。
インターネットバンキングを利用する場合は、パスワードやセキュリティ番号といった情報を入力することで取引が可能となります。
預金を狙う犯罪者にこのような情報が知られてしまうと、インターネット上の自分の口座にアクセスされて、勝手に定期預金を不正に引き出される可能性があります。
金融犯罪の中でも、インターネットバンキングに関わる犯罪は、年々増加傾向にあります。
犯罪の手口も巧妙になりつつあるので、サイバー犯罪に対してのセキュリティ対策にはどの銀行も力を入れていますが、本人の意識が何よりも大切です。
(1)パソコンのウィルス対策を厳重にする
(2)メールなどで情報を盗むフィッシングの手口に引っかからない
(3)暗証番号やパスワードは他人に推測されにくいものにする
(4)セキュリティ番号カードを他者の目に触れさせない
といったことに気を付ける必要があります。
もし定期預金が不正に解約されていることに気が付いたら、早急に警察に届け出ましょう。
警察に盗難届けを出すと共に、銀行にも盗難届けを出す必要があります。銀行は盗難届けが出された時点で、口座を凍結してそれ以上の被害を防止してくれます。
急を要する場合は電話での連絡でも大丈夫です。多くの銀行で、銀行窓口が閉まっている時間でも紛失、盗難被害に対しては24時間対応を取っています。
また警察に届け出ることによって、銀行側の協力が得られます。
警察からの捜査依頼により、銀行側は防犯カメラの映像を提供します。
窓口で解約されていた場合であれば、対応した銀行員の証言が得られるかもしれません。
万が一、預金が不正に払い戻されてしまった場合でも、銀行側が盗まれたお金を補償してくれることがあります。
以前は、どの銀行も不正引き出しに対しての免責規定を設けており、銀行側が補償することはありませんでした。しかし、近年は銀行側が預金者に代わって損失を引き受けてくれるようになりました。
銀行が預金者保護に重きを置くようになった理由は、盗難被害にあった預金者を保護するためにできた新しい法律の存在があります。
平成18年に預貯金者保護法(偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律)が制定されました。
この法律の制定を受けて、全国銀行協会が動きました。
「たとえ銀行側が無過失であっても預金者側に過失がない場合には、原則として補償するように」という申し合わせが各銀行になされたのです。これにより被害者救済が図られるようになりました。
ただし気を付けたいのは、預金者側に「重過失・過失がない」という条件があることです。
預金者側に注意義務違反がある場合には補償されません。つまり預金者本人に不正引き出しを発生させた責任が認められる場合には、補償が受けられません。
ここでいう重過失とは、例えば預金通帳等を預金者が他人に渡してしまった場合などです。また、過失とは、預金通帳等を他人に盗まれやすい状態に置いてあった場合などです。
(※ 重過失・過失の要件、内容については各銀行によって異なりますが、どの銀行にも詳しい規定が設けられています。)
盗難といっても、外部者の犯行だけではありません。
預金の不正引き出しの中でも多いのが、家族による無断引き出しです。
子どもや孫が両親や祖父母名義の通帳等を勝手に持ち出して、預金を引き出すケースがあります。
家族であれば、健康保険証なども容易に家から持ち出せます。
そうなると、窓口で代理人を装って家族の定期預金を解約することが可能です。
多くの銀行では、こうした家族間の犯行による不正引き出しに関しては補償の対象としていません。
定期預金の場合は特に、通帳や証書を保管したまま確認しないことがよくあるので、被害に遭っても気が付きにくいです。
時間がたつと銀行員も窓口に来た人間を思い出せなくなるので、犯人逮捕が難しくなります。そうならないためにも満期日の確認をするつもりで、時々は定期預金のチェックを心がけたいです。
また、家庭内でも他者が見つけやすいところに通帳や印鑑を保管することを避け、財産をきちんと管理することが防犯につながります。