夫婦で家計を一緒に管理していても、銀行口座や定期預金は原則として夫または妻のどちらか一方の名義になります。
ここで重要なのは、「夫婦だからお金は全部共同のもの」と単純に考えないことです。
銀行口座の名義、税務上の贈与、離婚時の財産分与では、それぞれ判断基準が異なります。
特に、夫名義の定期預金を解約して妻名義の定期預金へ移す場合などは、資金の目的・金額によって贈与税の問題が生じることがあります。
日本の一般的な個人向け銀行口座は、夫婦の共有名義ではなく、夫または妻の個人名義で開設します。
そのため、夫婦で貯めたお金であっても、実際にはどちらか一方の名義の普通預金・定期預金として管理されることがあります。
ただし、口座名義が夫だから常に夫だけの財産、妻名義だから常に妻だけの財産、と決まるわけではありません。
預金の実質的な帰属を考えるときは、そのお金を誰が稼いだのか、誰から贈与・相続されたのか、どのような目的で資金移動されたのかなどを見ます。
たとえば、夫が婚姻前から持っていた500万円を結婚後も夫名義の定期預金として管理していれば、原則として夫固有の財産と考えられます。
反対に、婚姻中に夫婦が協力して形成した預金は、名義が一方だけでも離婚時の財産分与の対象となり得ます。
日常生活では「夫婦のお金」「家庭のお金」と考えていても、税法上や民法上では別の扱いになります。
たとえば、
・銀行手続きでは口座名義人本人の預金
・贈与税では一方から他方へ財産を無償で移したか
・離婚時の財産分与では婚姻中に夫婦が協力して取得・維持した財産か
というように、見る基準が異なります。
「夫婦だから実質共有財産」という一言だけで、すべての税務・法律関係を説明することはできません。
以前は、夫名義の通帳を妻が窓口へ持参して家計管理をする家庭も多くありました。
現在は本人確認・マネーロンダリング対策・詐欺防止のため、口座名義人本人の意思確認がより重視されています。
家族が代理で手続きする場合は、銀行所定の委任状、代理人届、本人・代理人の確認書類などを求められる場合があります。
夫婦だからという理由だけで、相手名義の定期預金を自由に解約できるわけではありません。
夫婦それぞれが自分名義の普通預金・定期預金を持つと、
・本人確認が簡単
・自分の資産残高を把握しやすい
・婚前財産や相続財産を区別しやすい
・認知症・死亡時に生活資金が一方の口座だけに集中しない
といったメリットがあります。
ただし、単に「夫のお金を妻名義へ移しておく」という方法は、贈与税の問題につながる可能性があります。
配偶者であっても、一方から他方へ財産を無償で贈与すれば、原則として贈与税の対象です。
たとえば、夫名義の定期預金500万円を解約し、妻へその500万円を贈与して妻名義の定期預金を作れば、贈与税の問題が生じます。
「夫婦の口座間だから税金は関係ない」という考え方は誤りです。
暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いて贈与税を計算します。
110万円は「贈与する人ごと」ではなく、「贈与を受けた人が1年間にもらった財産の合計」に対する基礎控除です。
たとえば妻が同じ年に夫から80万円、親から50万円の贈与を受ければ、暦年課税では合計130万円として考えます。
夫婦は互いに扶養義務があるため、通常必要と認められる生活費を負担するための資金には、原則として贈与税はかかりません。
生活費には、日常生活に通常必要な食費・住居費などのほか、治療費、養育費なども含まれます。
ただし、生活費として必要な都度渡し、そのお金を実際に生活費へ直接使うことが重要です。
国税庁は、生活費・教育費として贈与税がかからないのは、必要な都度、直接その用途に充てるための財産に限るとしています。
たとえば、夫が妻へ年間300万円を「生活費」としてまとめて渡し、妻が実際には100万円しか生活費に使わず、残り200万円を自分名義の定期預金へ入れた場合、その200万円まで当然に非課税になるわけではありません。
生活費名目の資金を貯蓄・投資へ回した部分は、贈与税の対象になり得ます。
扶養義務者が通常必要な教育費を負担する場合も、原則として贈与税はかかりません。
学費、教材費、文具費などが該当します。
たとえば夫名義の定期預金を満期解約し、子どもの大学授業料として必要な金額を妻の口座経由で大学へ支払う場合は、実態として教育費の支払いであることが重要です。
将来の教育費として数百万円を妻名義の定期預金へ移して貯めておくことまで、当然に教育費非課税になるわけではありません。
夫婦で住宅を購入するときは、実際の資金負担割合と不動産の持分割合が大きく異なると、夫婦間の贈与と認定される可能性があります。
たとえば購入代金4,000万円を夫が全額負担したのに、所有権を夫1/2・妻1/2で登記すると、妻が取得した持分について贈与の問題が生じる場合があります。
住宅購入では、誰がいくら負担し、誰がどの持分を取得するかを合わせて考える必要があります。
婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を贈与した場合、一定の要件を満たし贈与税の申告をすると、基礎控除110万円とは別に最高2,000万円までの配偶者控除を受けられます。
これは「夫婦なら現金2,000万円まで自由に非課税」という制度ではありません。
居住用不動産またはその購入資金であること、婚姻期間、実際の居住などの要件があります。
夫婦間の居住用不動産の配偶者控除は、自動的に適用される制度ではありません。
適用を受けるには贈与税の申告が必要です。
また、同じ配偶者間では原則として一生に一度の適用です。
夫の資金を妻名義の定期預金へ移し、その後は妻が自由に使える状態にした場合、実質的に妻への贈与と判断される可能性があります。
一方、妻名義の口座を単なる家計決済用として使い、夫のお金をその都度生活費へ充てているだけなら、必ずしも贈与になるとは限りません。
税務では口座名義だけでなく、資金の出所、贈与の意思、管理・使用実態を総合して考える必要があります。
妻名義の定期預金であっても、実際には夫が全額資金を出し、通帳・印鑑・資金管理も夫が行い、妻が自由に使えない状態なら、税務上の実質的な所有者が夫と判断される可能性があります。
相続時には、名義が妻でも夫の相続財産として問題になることがあります。
夫婦間で財産を実際に贈与する場合は、資金移動だけでなく、受贈者本人が管理・使用できる状態にすることも重要です。
離婚時の財産分与では、婚姻中に夫婦が協力して取得・維持した財産が対象になります。
預金・定期預金・株式・不動産などが対象になり得ます。
一方の名義の定期預金でも、婚姻中に夫婦の協力で形成された財産なら、財産分与の対象となることがあります。
婚姻前から本人が所有していた定期預金は、原則としてその本人の特有財産であり、離婚時の財産分与の対象にはなりません。
ただし、婚姻後の資金と混在させると、どこまでが婚前財産だったのか分かりにくくなることがあります。
結婚前から持っている資産については、通帳・残高証明・取引履歴などを保存しておくと説明しやすくなります。
婚姻中であっても、夫または妻が単独で相続・贈与により取得した財産は、原則としてその人の特有財産と考えられます。
たとえば妻が親から1,000万円を相続し、その資金で妻名義の定期預金を作った場合、原則として夫婦の財産分与対象ではなく妻の特有財産です。
ただし、生活費口座などへ混ぜて長期間管理すると、資金の由来を立証しにくくなる場合があります。
離婚を前提とした別居が始まる場合、定期預金・普通預金・証券などの残高資料を保存しておくことが重要です。
財産分与の基準時を別居時とする例が多くありますが、具体的な基準時は事案によって異なります。
そのため、別居時点の預金残高や取引履歴などの資料を確保しておくことが重要です。
別居後に一方が定期預金を解約して使った場合でも、財産分与の際にその処分が考慮されることがあります。
ただし、「使った金額は必ず全額そのまま請求できる」と一律には言えません。
使途、時期、生活費として必要だったかなども問題になるため、高額な資金移動がある場合は取引履歴を保存しておきます。
2026年4月1日以降に離婚した場合、離婚後に家庭裁判所へ財産分与を求めることができる期間は、原則として離婚の日の翌日から5年です。
2026年4月1日より前に離婚した場合は、従来どおり2年が基本となるため、離婚時期によって扱いが異なります。
1. 夫婦それぞれの名義で口座を持つ
2. 家計用資金と個人資産を区別する
3. 婚前財産・相続財産の記録を残す
4. 大きな資金移動は目的を記録する
5. 生活費・教育費は必要な都度支払う
6. 相手名義口座を無断で利用しない
7. 贈与する場合は贈与税を確認する
8. 住宅購入では資金負担と持分を合わせる
必ずしもそうではありません。銀行口座としては夫名義ですが、離婚時の財産分与では、婚姻中に夫婦の協力で形成された財産なら対象となることがあります。婚前財産や相続財産などは原則として特有財産です。
暦年課税では、受贈者が1年間に受けた贈与の合計額から110万円を控除します。夫以外から受けた贈与も原則として合算するため、「夫から110万円まで」という意味ではありません。
生活費の非課税は、通常必要な金額を必要な都度、その用途へ直接使う場合が基本です。使わずに妻名義の定期預金へ貯蓄した部分は、贈与税の対象になる可能性があります。
いいえ。配偶者控除は、居住用不動産またはその取得資金の贈与について、一定の要件を満たし申告した場合に最高2,000万円まで控除できる制度です。
原則として婚前から本人が所有していた定期預金は特有財産で、財産分与の対象外と考えられます。婚前残高を示す資料を保存しておくことが重要です。
※本ページは2026年8月時点の一般的な税制・民事法制をもとに解説しています。夫婦間の資金移動が贈与に当たるか、生活費・教育費として非課税となるか、名義預金に当たるか、離婚時の財産分与対象になるかは、資金の出所・管理状況・贈与意思・婚姻状況などによって異なります。高額な資金移動・住宅購入・離婚時の財産分与では、税務署、税理士、弁護士等へご確認ください。
