2017年から開始された「預貯金口座付番制度」は、金融機関の預金口座とマイナンバーを紐付ける制度です。
マイナンバー(個人番号)とは、日本に住民票を持つ人(外国人も含む)に割り振られている12桁の番号のことで、おもに「社会保障」「税」「災害対策」の三分野において個人情報の管理に使われています。
たとえば、三分野に関する一人ひとりの個人情報をマイナンバーに紐付けることで、行政手続きの際の個人情報の整理や照会を迅速かつ正確に行えます。
自身のマイナンバーは2015年に対象者(日本に住民票を持つ人)へ郵送された通知カードや、マイナンバーカード(通知カードとは別途で申請する、マイナンバーと顔写真が記載された身分証明書機能付きカード)で確認できます。
預貯金口座付番制度とはマイナンバーを預金口座と紐付ける制度で、「社会保障」と「税」の二分野に効果があります。
たとえば個々のマイナンバーに紐付けられた預金口座の内容(資産)を照会して、社会保障制度や税務執行における資力調査を円滑に行えます。
資力調査とは、個人の収入や資産などを調査することで、たとえば生活保護を申請した人の収入などを調査して受給資格があるかどうかを調べたり、資産を調査して税金の申告漏れがないかどうかを確認したりすることです。
マイナンバーと預金口座が紐付けられていれば、個々の資産を正確に把握できます。
この預貯金口座付番制度の開始以来、金融機関の利用者は所定の取引を行う際に、金融機関へマイナンバーの届け出を行う必要があります。
マイナンバーの届け出が必要な取引とは、特定口座やNISA口座の新規開設、海外送金、財形預金の新規申込み、マル優やマル特の新規申込みなどです。
これらは「社会保障」や「税」の分野と関連がある金融商品およびサービスなので、マイナンバーと紐付けて管理する必要があるのです。
さらに金融機関では、上記以外の取引でも任意でマイナンバーの届け出を求めています。
たとえば普通預金や定期預金といった預金商品の新規口座開設、住所変更手続きの際などにマイナンバーの届け出を求められる場合があるのです。
今のところ、これらの取引はマイナンバーの届け出が必須ではないので届け出を断っても問題はありません。
実際のところ、マイナンバーの届け出を求めない金融機関もあります。
ちなみに、すでに金融機関でマイナンバーの届け出を済ませている場合は、改めて同じ金融機関に届け出を行う必要はありません。
預貯金口座付番制度の開始以降、金融機関では普通預金や定期預金といった預金商品を口座開設する際に、マイナンバーの届け出を求める場合があります。
マイナンバーの届け出は義務ではないので断われますが、政府は2021年以降にマイナンバーの届け出の義務化を目指しています。
万が一、マイナンバーの届け出が義務化された場合は、普通預金や定期預金を口座開設する際にはマイナンバーの届け出を必ず行うことになります。
そのため、今から金融機関へマイナンバーの届け出を行ってもよいでしょう。
実際、すでに一部の取引(NISAや財形預金など)では、マイナンバーの届け出が必須となっています。
金融機関で普通預金や定期預金を口座開設する際、同時にマイナンバーの届け出も行う場合は、マイナンバーが記載された通知カードまたはマイナンバーカードが必要です。
通知カードは2015年に対象者(日本に住民票を持つ人)へ郵送されたもので、マイナンバーカードは別途で申請する必要があります。
マイナンバーカードはそれだけで金融機関への届け出が可能ですが、通知カードは一緒に本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)もなければ届け出ができません。
また一度でもマイナンバーの届け出を行った金融機関では、再び届け出を行う必要はありません。
金融機関にマイナンバーの届け出を行う場合は、いくつかの注意点があります。
たとえば、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行などの大手金融機関は、グループ会社の中に証券会社や信託銀行など複数の金融機関が含まれており、マイナンバーの届け出はそれぞれの金融機関ごとに行います。
より適切な金融商品やサービスを提供するために、グループ会社同士で利用者の個人情報(取引内容や信用情報など)を共有することは珍しくありませんが、マイナンバーはその共有の対象外なのです。
そのためグループ会社を含む複数の金融機関と取引する場合は、それぞれの金融機関でマイナンバーの届け出を行います。
さらにマイナンバーが記載された通知カードやマイナンバーカードには、マイナンバーの他に住所や氏名なども記載されています。
これらの情報が誤っている場合は、金融機関にマイナンバーの届け出を行う前に、マイナンバーの記載事項の変更手続きを行う必要があります。
またマイナンバーカードには有効期限があり、期限切れのマイナンバーカードでは金融機関に届け出ができません。そのため、通知カードやマイナンバーカードの記載事項、有効期限も確認しておきましょう。
金融機関で定期預金などを取引するにあたって、マイナンバーの届け出も同時に行えます。
金融機関にもよりますが、複数の選択肢から届け出方法を選べることが多いです。
たとえば、各金融機関の店舗窓口、スマートフォンアプリ、郵送などでマイナンバーの届け出が可能です。
このうち店舗窓口での届け出は、定期預金の口座開設手続きを始めとする各種取引のついでに行えます。
ただし金融機関の営業時間内に来店して手続きを行うため、忙しい人は利用しにくいです。もちろんインターネット銀行は実店舗がないため、窓口での届け出はできません。
来店せずにマイナンバーの届け出を行う場合は、スマートフォンアプリによる届け出ができます。
金融機関によってはマイナンバー届け出のためのスマートフォンアプリを提供しており、本人確認のための個人情報(口座情報など)を入力して必要書類を撮影するだけで届け出を完了できます。
スマートフォンアプリなら、来店せずに24時間いつでも届け出を行えるうえに、アプリのダウンロードも無料です。
スマートフォンを持たない利用者や、来店せずにマイナンバーの届け出を行いたい利用者は、郵送による届け出も活用できます。
郵送で届け出を行う際には、まず金融機関の問い合わせ窓口へ連絡をして、手続きに必要な申込書を請求します。
申込書が届いたら必要事項を記入し、マイナンバーカードのコピーなどの必要書類を同封して返送すれば届け出は完了です。
このように郵送での届け出は、スマートフォンアプリでの届け出と同様に来店せずに完了できます。
しかし、郵送で書類をやり取りするのに一定の日数がかかるため、即日で届け出を行いたい場合には不向です。
さらに金融機関では、代理人がマイナンバーの届け出を行うことも可能です。
たとえば親権者が子どものマイナンバーの届け出を行ったり、成年後見人(認知症などで判断能力が低下した人の代理人)が被後見人のマイナンバーの届け出を行えます。
この場合は、委任状や名義人のマイナンバー、代理人の本人確認書類などの書類が必要です。
預貯金口座付番制度は、金融機関の預金口座とマイナンバーを紐付ける制度です。
行政がマイナンバーを通じて国民の預金口座を管理できて、社会保障制度や税務執行における資力調査が円滑になります。
しかし、マイナンバーの届け出を行って預金口座とマイナンバーを紐付けることに抵抗感を感じる人も多いです。
たとえば、行政に預金口座の内容を把握されることを嫌う人や、資力調査の抜け道がなくなることを懸念する人などです。
さらに万が一、マイナンバーが漏洩(ろうえい)した場合、紐付けされた預金口座を皮切りに資産内容などの個人情報が芋づる式に漏洩するではないか?と考える人もいます。
現代はマイナンバーに限らず個人情報の漏洩トラブルが多いため、預金口座の内容という重要情報が漏洩することを心配する人が多いのです。
しかし実際のところ、マイナンバーが漏洩しても預金口座の内容はもちろん資産内容などの個人情報まで一気に漏洩することはありません。
マイナンバーに紐付けされた個人情報は一括で管理されるわけではなく、各機関で分散管理されます。
具体的には、国税に関する個人情報は税務署、各種手当や生活保護などに関する個人情報は市区町村、年金に関する個人情報は年金事務所で管理されます。
これら各機関は共通のデータベースを持たないので、それぞれが管理する個人情報を自由に照会し合うことはできません。
さらに個人情報を照会する場合は、マイナンバーだけではなく、各機関ごとに異なる暗号コードを利用する必要があります。
そのため仮に一部の機関でマイナンバーの漏洩(ろうえい)があったとしても、各機関に分散された個人情報がすべて漏洩することはありません。
日本に先んじてマイナンバー(国によって名称は異なる)を導入している国では、マイナンバー漏洩(ろうえい)による成りすまし事件などが起こっています。
しかしそのようなトラブルは、マイナンバーだけで本人確認したり、マイナンバーの活用範囲の広さが原因で起こっています。
その点、日本ではマイナンバーを「社会保障」「税」「災害対策」の三分野でしか利用せず、マイナンバーだけで本人確認も完了できません。
マイナンバーが記載されたマイナンバーカードは、身分証明書として利用できます。
しかし申請した人にのみ発行され、様々なセキュリティ対策も施されているため、偽造したりマイナンバーから個人情報を読み取れません。
そのため、マイナンバーやマイナンバーカードから個人情報が漏洩するリスクは低いといえます。
まだ義務化されていない預貯金口座付番制度では、NISA口座や海外送金など一部の取引を行うときだけマイナンバーの届け出が必要です。
しかし将来的には義務化されて、普通預金や定期預金の口座開設にもマイナンバーの届け出が必要となる可能性があります。
その場合、税務執行における資力調査(個人の収入や資産などを調査すること)において高い効果を発揮すると見られています。
それというのも税務署の資力調査では、調査対象者の預金口座の特定や、過去の入出金履歴の調査などが行われますが、この「預金口座の特定」にマイナンバーが効果的なのです。
たとえば従来では、対象者の居住地や勤務先付近の金融機関を調べたり、本人に口頭で取引金融機関の確認をしたりという地道な作業で預金口座を特定していました。
しかし、預貯金口座付番制度の義務化で全ての預金口座がマイナンバーと紐付けされれば、マイナンバーから対象者名義の預金口座を簡単に照会できます。もし遠方の金融機関や複数の金融機関と取引をしていても、見落としません。
預金口座とマイナンバーが紐付けされると、「名義預金」も露見しやすくなります。
名義預金とは名義人(預金口座の持ち主)と預金者(預金を行う人)が異なる預金口座のことです。たとえば子ども名義の預金口座を親が借りて、親が資金を預けているケースなどが該当します。
子どもへの贈与目的で多くの人が利用していますが、資力調査で名義預金が発覚すると、相続税の申告漏れを指摘されることが多々あります。
それというのも名義人(預金口座の持ち主)や預金者(預金を行う人)の多くは、名義預金を名義人が所有する預金口座だと認識しています。そのため預金者が亡くなった際に名義預金を相続財産(相続で引き継がれる財産)に含めず、相続税を支払わないケースが多いのです。
しかし、預金通帳やキャッシュカードを預金者が持っていると、税務署に預金者が所有する預金口座と認識され、相続税の申告漏れを指摘されてしまいます。
そのため名義預金を利用する際は、預金通帳やキャッシュカードを名義人に持たせるなどの工夫が必要です。
また預貯金口座付番制度に先行して、2016年からは税務署に提出する所得税申告書や扶養控除等申告書、源泉徴収票などにマイナンバーの記載が求められています。
そのためタンス預金が発覚する可能性も上がっています。タンス預金とは金融機関にではなく、自宅に資金を保管することです。
マイナンバーと紐付けされる預金口座と違って、タンス預金は税務署に存在が露呈しないと思われがちです。しかし税務署に提出する各種申告書と預金口座がマイナンバーに紐付けされることで、対象者の収入と預金口座の入出金履歴などを照らし合わせて行方不明の資金が分かります。
預貯金口座付番制度やマイナンバーの導入以降、これらの制度に便乗して不正な勧誘や個人情報を入手する手口の詐欺が多発しています。
たとえば預貯金口座付番制度やマイナンバーに関する手続きと称して、預金口座の口座番号を聞き出したり、金銭をだまし取ったりするのです。
もともと金融機関関連の詐欺は多種多様で、電話でキャッシュカードの暗証番号や口座番号を聞き出したり、キャッシュカードや預金通帳をだまし取ったり、架空請求をして代金を要求したりする手口があります。
新たな制度とともに、新たな詐欺の手口も登場するので注意が必要です。
預貯金口座付番制度やマイナンバー関連の詐欺には、電話で「あなたの個人情報が流出した」などと虚偽の報告をして削除手続きの手数料を騙し取ろうとしたり、「個人情報訂正手続き」と称して個人情報を聞き出す手口が報告されています。
個人情報流出などの不安を煽る言葉で対象者を焦らせるのは、金融機関関連の詐欺でよく見られる手口なので注意しましょう。
実際には、預貯金口座付番制度やマイナンバーに関する手続きにおいて、手数料が発生したり、電話で個人情報を確認することはありません。
不審な勧誘を受けた際には、消費者ホットラインや、警察の相談専用電話窓口、マイナンバー総合フリーダイヤルなどの電話窓口に連絡するとよいでしょう。
また金融機関を騙って(かたって)口座番号やキャッシュカードの暗証番号などを聞き出そうとする手口に関しては、当該金融機関の電話窓口に連絡しましょう。
そして自分のマイナンバーを人に教えたり、マイナンバーカードや通知カードのようにマイナンバーが記載されたものを他人に貸すことも避けましょう。